「在宅ホスピス」 5 「死の体験旅行」

P.210 死とは、大切な人や物、活動との別れのプロセス

著者は武蔵野美術大学で「健康や命を大切にするようになる授業」を
請われて、特任教授を引き受けたそうです。
その授業の一部やレポートの課題が紹介されています。

それをちょっと真似してみるだけでも、興味深い思考が展開します。
ちょっと長くなりますが、面白いので方法を紹介しましょう。

P.211 まずA4の紙を用意し、それを4分割するように線を引き、
   4分割されたそれぞれのところに、
   自分にとって大切な人を5人(親、兄弟、子ども、恋人など)、
   大切な物を5つ(形見の時計、パソコン、車、ピアノ、携帯電話など)、
   さらに大切な自然を5つ(山、川、空、海、森など)、
   最後に大切な活動(ボランティア、英会話、テニス、趣味など)を
   5つ書き出してほしい。

   あなたにとって、大切と思われる人や物が全部で20、
   目の前にリストアップされたことになる。

   その上で、あなたには、体調不良を感じたと仮定して、
   病院で診察を受け、その結果がんと診断され、治療を受けたが、
   残念ながら再発して、末期状態になり、やがて亡くなっていく、
   というストーリーの主人公になっていただくのだ。

P.212 (BGMが流れる中、上記ストーリーがゆっくりと朗読される)
   (中略)場面が転換する度に、リストアップした大切な存在から、
   朗読の中の指示に従い、一つないし二つを選び、
   「今までありがとう」と心の底から感謝しつつ、消去していく。

P.213 ストーリーが進むにつれ、目の前から、確実に大切な存在が
   消えていく手法だった。

   (中略)そのようにして、がんと診断された時、治療が終了した時、
   再発した時、自分が死を予感した時と、大切な存在を
   消去し続けることになる。

   そして、臨終間際には、どうしても消去しきれなかった
   大切な存在が一つ残るようにプログラムされている。
   その最後まで残った、あなたにとって最も大切な存在に対しても、
   「今まで本当にありがとう」と言って消去してもらう。
   そして最後の一息後、あなたは亡くなるのである。

   (中略)いずれにせよ、死はじぶんにとって大切だと思っていた
   存在との別れのプロセスであることを否応なく実感することになる。
   辛い、疑似体験である。

この実験の意義や示唆するものは、本を読んで頂かねば、
詳細は伝わりません。辛い話ですが、知っておくことは有意義です。

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