桃紅さんの追悼集 3  どれだけ長く生きても 真理はつかめない

p.128 三年前、私は『一〇三歳になっ てわかったこと』を上梓しました。
    そして昨年は『一〇五歳、死ねな いのも困るのよ』を出版しました が、
   その僅か二年のあいだでも、 百二歳の時にはなかった新しい発 見を得て、
   記述しました。衰えるということは、悪いこととは限りません。

   たとえば、お皿一枚にしても、 若い時はこういうお皿だと思って いたのが、
   歳を取ったらまた別の 面白さを同じお皿から見出すよう になります。
   若い時には気がつか なかったけれど、このお皿には面 白い点もある、
   と老いて初めて発 見するのです。歳を取らないと見 えてこない。

   あるいは、私は極端に暑さに弱 く、夏は山中湖村で過ごしていま す。
   そこで咲く草花を毎年見てい ますが、ああこの草花にはこうい う美しさが
   あったのだと、これま でとは違ったアングルで見るよう になりました。

   歳を取るというのは、一応は悲 しむべきことなのでしょう。
   しか し、悲しむ一点だけではない。小 さな草花にもこういう美しさが
   あ ったのだと、初めて得られる喜び があります。歳を取ってみなけれ ば、
   気がつかなかった、というこ とは出てきます。

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