夫の介護  3  幻覚と幻聴

著者の夫君は産科医だったそうなので、かなりのインテリの筈。
それでも、
P.86 Kは将来の不安を感じていたのか、不眠が続き、毎日、
   睡眠薬を飲むようになった。薬を飲むとその作用は翌日まで続き、
   昼間にウトウト、夜は眠れないという悪いサイクルになる。

   (中略)深夜に呼び出しベルで起こされ、
   「睡眠薬を飲んでも眠れないから、セルシン(睡眠薬)を注射して
   くれ」(中略)「危険でもいいから打ってくれ。辛いんだ。」

著者は遠距離通勤しながら、彼を自宅で介護する決心をしたのだが、
自宅に戻って1年目くらいから奇妙な行動が増えたそう。

P.89 誰彼かまわず夜中でも、朝方でも電話をかけまくるようになった。
   (中略)「このままだと友達をなくすから、注意したほうがよい」
   と忠告されても、本人に悪気はないし、電話をかけた記憶もない。
   そして、気づけばまたかけてしまう。

トラブルが起こるその都度、夫をなだめ、慰め、励ます毎日のようです。
そしてついには幻覚や妄想のせいで、警察にまで電話して呼んでしまう。
精神科医の診断によると、これらの原因は
P.95 脳出血の後遺症による高次機能障害だという。代表的な症状は七つ。

   1.全般性注意の障害
   2.記憶の障害
   3.言語の障害
   4.計算の障害
   5.方向性注意の障害
   6.視空間認知の障害
   7.社会的行動の障害

P.96 注意力が散漫で忘れやすい。言葉が思うように出てこない。
   左側にある物が見えにくい。字が真っ直ぐに書けない。
   正面を真っ直ぐに見ることができない。頼んだことをすぐにしないと、
   怒る。イライラする。気に入らないと手を上げる……

   左の脳出血に右側の脳梗塞が重なり、かなり重症と言われたが、これほどの
   高次機能障害とは思わなかった。この時まで気付かなかったのは、
   入院中の高次機能障害検査を拒否したからである。

あ~、ここでもプライド症候群が…………
ただ、結果的に認知症(進行性の脳疾患)ではなかったそうです。が、、

P.96 Kの場合は脳損傷から数か月は急速に症状が回復するが、
   やがて回復速度が鈍化して後遺症を残しながら固定する。
   認知症は基本的に進行性の経過を辿る。

P.97 そういう意味では、発症後3ケ月のリハビリは大事だったのである。
   その大事なリハビリを、Kは医師であるという自尊心から
   言語療法などを拒否したことで障害が残ってしまった。

男性は皆、こんな傾向があるのか? 社会的に華々しく活躍した男性だけなのか?
私の父(パーキンソン病)も、晩年は怒りっぽくなっていきましたが、
「施設に入れられるのは絶対嫌!」という思いで、耐えていたようです。

K氏は結局、気が合っていた介護士さんにも横暴になり、去られてしまい、
ヘルパーも看護師も見下すような態度だったようです。
今は、「夫が倒れたら?」という前提で勉強をしていますが、
「私が先に倒れる可能性」だって十分あります。

だから、このような本を読んで、ケーススタディをしておくことは
非常に大切だと思うのです。

上部へスクロール