ラジオ体操は 65歳以上には 向かない  戸田佳孝・著   2016/3

「ラジオ体操って、高齢者には良くないんだってよ」という声が
この2~3年、チラホラと聞こえていましたが、やっと本を発見しました。

著者は整形外科医でリウマチ科クリニック院長です。
本のタイトルは編集者の提案で、決して乗り気ではなかったそうですが、
p.197 「広く普及し、信じられている題材を科学的に検証する」という試みが、
   医学を進歩させる原動力になってきたことも事実なので決定

ごく真面目な、好感の持てる記述内容です。
私もリタイア後ずっとラジオ体操を続けているので、
我が意を得たり、という情報が満載です。

一番、面白かった話は、ラジオ体操誕生の経緯です。
p.135 ラジオ体操の起源は、1925年に米国メトロポリタン生命保険株式会社が
   ラジオ放送でひろめた体操にある。(中略)当時、生命保険には
   「死を待つ不吉な商売」という暗いイメージがあり、それを払拭するため
   宣伝の一環として体操を採り入れた。

   「朝の体操で長生きしよう」というメッセージを込めたこの体操は
   全米にブームを呼び、生命保険を明るいイメージに転換するのに効果があった。

   メトロポリタン社の体操は32の運動から構成されていて、その中には
   寝転んで行う脚上げ運動や腹筋運動、足まわし運動が含まれていた。
   現在の日本のラジオ体操とは異なり、筋肉を鍛える要素が多かった

   また、家庭で一人で行うことが想定されており、屋外で集団で行うような
   体操ではなかった。

p.136 このメトロポリタン社の体操を、当時(1920年代)の通信省簡易保険局
   企画課長が、日本に紹介した。(日本でも、簡易保険の販売に苦戦して
   いたので、ラジオ体操が効果的だと考えた。)

   (中略)ところが、日本のラジオ体操は、手本であるメトロポリタン体操とは
   ずいぶん違うものになり、運動が32種類から11種類に減り、かなり楽になり、
   簡易保険の宣伝もゼロに。

p.137 簡易保険の宣伝色が排除された理由は、NHKから
   「特定の商品の宣伝は日本放送協会の趣旨に反する」と疑問を呈されたから。
  
   さらに、「昭和3年に昭和天皇の即位御大典で陛下に奉納する」前提ができ、
   そのため、ラジオ体操は常に皆が前を向き、隣の人と一定の距離を置き、
   単純な動きでそろいやすいようつくられた

p.138 体力をつけるより、お立ち台から見てきれいに見えることが、
   ラジオ体操の大きな目的の一つとなった

   天皇陛下に向かってメトロポリタン体操のように寝転んで足をまわす
   ような運動は無礼なため、そうした部分は削られてしまい、筋肉を
   鍛える要素の少ない楽な体操になった

p.139 「過去の体操が、唯力一杯元気をだしてやる」といった形式で、
   「然も其の体操たるや、実に殺風景であった」という点から色々考えられて、
   「今度は、少しハイカラな所を取り入れ、唯元気一杯にやるのではなく、
   逆に力をぬかしてその結果力の這入るような体操を考案」親しそうです。

   この結果ラジオ体操は、体力をつける要素よりも   
   ダンスの要素が強い作品となった

p.142 ラジオ体操の放送開始から8年後、二・二六事件が起こり、日本は
   軍部独裁による政治的色彩が強くなり、徐々に戦時体制が強化され、
   物質面、精神面への統制が打ち出されるようになった

   これに応じてラジオ体操にも、心身を鍛えて愛国精神を湧起させる
   効果がますます期待されるようになった。ラジオ体操は
   「国民精神総動員」の中における重要な体育運動と位置付けられ、
   太平洋戦争下ではなかば強制的にラジオ体操参加が奨励された

色々な経緯を経て、ラジオ体操は生まれ変わり、多くの人に平和的に親しまれる
体操になったようですが、
p.144 その一番の特徴はやはり、「お立ち台からきれいに見えるよう、
   みんなが前を向いて、ダンスのようにそろった動きをすること」

明日からは、具体的な「問題のある体操について」紹介します。

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