自分の血液が「がんを治す!」  水町重範・著  2004/11

がんの治療法の一つとして友人が紹介してくれた本です。
「がんと闘うのではなく、共存する」方法なので私好みですが、
結構古い本なので、現在、どのように評価されているのか
知りたいところです。

著者のクリニック(会員制)に通うには、当然、健康保険はきかないので、
かなりの治療費がかかりそうなことは確実です。

とりあえず、気になる「治療法のコンセプト」をメモすると、
p.27 ガンのような病気にかかる患者さんは、
   血液の中にあるリンパ球と言う免疫細胞の数が少なくなっていたり、
   あるいは細胞に元気がなくなっていたりします。
  
   そのために本来なら自然治癒力という、人間が もともと持っている
   抵抗力で癌細胞の動きを抑え込むことができるのですが、
   リンパ球の数が少ないためにそうした防御力が発揮できないのです。

   そこで患者さんの血液からリンパ球という免疫細胞を一旦取り出し、
   科学的に培養・増殖をして、力のついたリンパ球を再び体内に戻す、
   つまり自分の血液で癌を治すというのが活性化自己リンパ球免疫治療。

   この治療により、人間が本来持っている自然治癒力を高め、
   がん細胞の働きを抑え込むというのが狙いです。

p.61 その基本的な考え方というのは、従来のような
   がん細胞に直接アタックするというアプローチではなく、
   体が生まれながらにして持っている免疫力を向上させることで、
   がん細胞の働きを弱らせていくという考え方です。

   この考え方で重要な部分は、必ずしもがん細胞の撲滅を目指すものではない
   という点です。つまり免疫力ががん細胞の力を上回っていれば癌は
   それ以上進行することがないので、がんとの共存が可能なのです。

p.78 血中から分離したリンパ球に「抗 CD 3抗体」と「インターロイキン2」
   という物質を与えると、刺激を受けたリンパ球が増殖を始め、2週間で
   100倍以上にその数を増やすのです。しかも単に数が増えるだけでなく
   一つひとつのリンパ球が活性化、つまり元気を回復し、それを
   再び体内に戻すことでそれまで好き勝手に暴れまわっていたがん細胞の
   働きにブレーキをかけることができるのです。

   ならば、元気なリンパ球だけを工業的に大量生産してしまえば良さそうに
   思う方もいるかもしれませんが、リンパ球はあくまで免疫細胞であり、
   その人の体の一部をなす構成員なので、誰のリンパ球でもいいというわけでは
   ないのです。言い換えれば、自分自身の血液から取ったリンパ球だからこそ
   副作用を引き起こすことが少なく、極めて安全性の高い治療法となるのです 。

p.82 この抗 CD 3抗体とは、インフルエンザウイルスやがん細胞の代わりにリンパ球に
   増殖スイッチを入れる役割を持っていて、これに刺激されたリンパ球は増殖を
   始めようとします。その時に「インターロイキン2」という物質を加えると細胞の
   増殖の際の栄養素の役割を果たし、急速に増殖させることができるのです。

   こうした免疫細胞の働きを利用することで、当初は数が少なかったり元気が
   なかったリンパ球を、約2週間という時間の中で100~200倍もの数に増やし、
   活性化させることができるのです.

p.102 活性化自己リンパ球治療の元祖は、1980年代にアメリカの国立衛生研究所
   (NIH) でローゼンバーグという研究者らのグループによって始められた
   ラック療法という治療法であると考えられます。

   これは患者のリンパ球に活性化自己リンパ球治療でも細胞増殖の栄養素として
   使われるインターロイキン2という物質を投与する方法です。
   活性化自己リンパ球治療ではその前にこう CD 3抗体という細胞増殖の
   スイッチを入れる役割の物質を使うのですが、ラック療法ではその工程が
   ありません。その結果ナチュラルキラー細胞という細胞が増えていきます。
   この NK細胞とインターロイキン2を一緒に体内に戻すことでがん細胞の動きを
   抑えようというのがラック療法の考え方でした。

p.103 ただしこの治療法はインターロイキン2を直接体内に投与するため
   副作用が強く有効性と副作用の辛さを秤にかけると必ずしも効果的な
   治療法ではないと判断されることが多く次第に下火になっていってしまいます。

   しかしその考え方を発展させて、癌治療に役立てられないかと日本の
   基礎医学者等が研究を引き継ぎ、ラック両方をさらに進化させたものとして
   活性化自己リンパ球治療が確立されたのです。
   そうした経緯から現在では本家のアメリカよりも免疫治療の分野においては
   日本の方が先端を行くような状況になってきているのです 。

p.167 ラック療法の提唱者である NCI(米国国立がん研究所)のスティーブン・
   ローゼンバーグという外科医が、リンパ球にがん細胞を認識できる遺伝子 TCR を
   導入するとリンパ球が一気にがん細胞に攻撃を始めるという事実を突き止めました。

p.168 リンパ球に特定のがん細胞が持っている癌抗原を認識できるレセプターの遺伝子
    TCR を導入すると、全てのリンパ球が同じタイプの癌細胞に対しては攻撃を開始
   するというものです。特定の能力を持ったリンパ球だけをクローニングして体外で
   増殖させてからがん患者の体内に戻すという、がん治療の観点から見れば
   夢のような話なのです。

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