著者の夫君は産科医だったそうなので、かなりのインテリの筈。
それでも、
P.86 Kは将来の不安を感じていたのか、不眠が続き、毎日、
睡眠薬を飲むようになった。薬を飲むとその作用は翌日まで続き、
昼間にウトウト、夜は眠れないという悪いサイクルになる。
(中略)深夜に呼び出しベルで起こされ、
「睡眠薬を飲んでも眠れないから、セルシン(睡眠薬)を注射して
くれ」(中略)「危険でもいいから打ってくれ。辛いんだ。」
著者は遠距離通勤しながら、彼を自宅で介護する決心をしたのだが、
自宅に戻って1年目くらいから奇妙な行動が増えたそう。
P.89 誰彼かまわず夜中でも、朝方でも電話をかけまくるようになった。
(中略)「このままだと友達をなくすから、注意したほうがよい」
と忠告されても、本人に悪気はないし、電話をかけた記憶もない。
そして、気づけばまたかけてしまう。
トラブルが起こるその都度、夫をなだめ、慰め、励ます毎日のようです。
そしてついには幻覚や妄想のせいで、警察にまで電話して呼んでしまう。
精神科医の診断によると、これらの原因は
P.95 脳出血の後遺症による高次機能障害だという。代表的な症状は七つ。
1.全般性注意の障害
2.記憶の障害
3.言語の障害
4.計算の障害
5.方向性注意の障害
6.視空間認知の障害
7.社会的行動の障害
P.96 注意力が散漫で忘れやすい。言葉が思うように出てこない。
左側にある物が見えにくい。字が真っ直ぐに書けない。
正面を真っ直ぐに見ることができない。頼んだことをすぐにしないと、
怒る。イライラする。気に入らないと手を上げる……
左の脳出血に右側の脳梗塞が重なり、かなり重症と言われたが、これほどの
高次機能障害とは思わなかった。この時まで気付かなかったのは、
入院中の高次機能障害検査を拒否したからである。
あ~、ここでもプライド症候群が…………
ただ、結果的に認知症(進行性の脳疾患)ではなかったそうです。が、、
P.96 Kの場合は脳損傷から数か月は急速に症状が回復するが、
やがて回復速度が鈍化して後遺症を残しながら固定する。
認知症は基本的に進行性の経過を辿る。
P.97 そういう意味では、発症後3ケ月のリハビリは大事だったのである。
その大事なリハビリを、Kは医師であるという自尊心から
言語療法などを拒否したことで障害が残ってしまった。
男性は皆、こんな傾向があるのか? 社会的に華々しく活躍した男性だけなのか?
私の父(パーキンソン病)も、晩年は怒りっぽくなっていきましたが、
「施設に入れられるのは絶対嫌!」という思いで、耐えていたようです。
K氏は結局、気が合っていた介護士さんにも横暴になり、去られてしまい、
ヘルパーも看護師も見下すような態度だったようです。
今は、「夫が倒れたら?」という前提で勉強をしていますが、
「私が先に倒れる可能性」だって十分あります。
だから、このような本を読んで、ケーススタディをしておくことは
非常に大切だと思うのです。