リンダ・グラットンさん
「昔は教育、勤労、引退の3つのステージで人生を送っていました。
でも私たちが長寿になり、技術革新が進む今、
ライフサイクル全体に対する考え方を変えなければならないのです。
教育は人生を通じてずっと続くものだと考えなければなりません。
仕事についても、若いうちに休みを取って子どもと一緒に過ごせるように、
もっと柔軟に考えなければなりません。
年をとったら、例えば旅行や勉強のために休みをとることもできます。
引退についても、働きながら引退も同時にできるように、もっと柔軟に
考えなければなりません。
それが著書でも紹介した「マルチステージ」という考え方です。
多様な生き方や働き方をするということで、
今年こそそれに挑戦する年だと思います
<三宅氏>
「人生100年時代」になると、
なぜ「マルチステージ」の生き方が大事なのでしょうか?
70歳の私のような高齢者はどうすればよいのでしょう。
<グラットン氏>
「3つのステージだけでは、あまりに融通が利かないと思うからです。
『引退』という言葉が、私たちの考え方や生き方を硬直化させたのだ
と思います。
働いていたと思ったら、次の瞬間にはぷっつりと途切れて引退すると
いうようにね。例えば60歳で引退してゴルフだけをして過ごすには、
100年の人生は長すぎます。他に人生を楽しむ方法を見つけなければなりません。
三宅さんや私のように70代まで働くこともできます。
家族と過ごす時間を大切にしながら旅行したり、
小さなビジネスを経営することもできるかもしれません」
<三宅氏>
現役世代に必要なのは「独自のスキル」
私たち高齢者にとっては、まず「考え方を切り替えることが必要」
だというリンダさん。ではもっと若い世代はどのように準備して
いけばいいのか、続けて聞いてみました。
―会社でバリバリ働く現役世代は、人生100年時代を生きるために何が必要ですか?
<グラットン氏>
「40代、50代の人たちは一生同じ会社に勤めるのが当たり前の時代で
過ごしてきましたが、今や世の中が変わりました。
転職は日本でもっと受け入れられると思います。
日本の労働市場は人材不足で、職を求める人より求人のほうが多いのですから。
ただ30代、40代で新たな職を見つけるためにはスキルが必要です。
現役世代は、カバンにいれて持って行けるような“持ち運べるスキル”を身に
つけることが賢明だと思います。
具体的には、私は文章を書くことやプレゼンテーションが得意です。
こうしたスキルは別の会社でも生かすことができます。
必要なのは『独自のスキル』です。
さまざまな仕事で応用できるものでなければいけません」
<三宅氏>
ただ日本では、総務省の「労働力調査」によれば、働く人の36.7%は
パートや派遣などの非正規労働者です(2021年の1年間の平均)。
学ぶ余裕もお金も無いという人も多いと思います。そういう状況で、
どうすれば「独自のスキル」を身につけることができますか?
<グラットン氏>
「どの国でも同じ問題に直面しています。別の仕事に就くために
新たなスキルを学ぶためのお金や時間の余裕がある人もいる一方で、
シングルマザーや低所得者など、それができない人もいます。
それぞれの国で、政府がどんな支援をすべきかが問題になっています。
イギリスでも、学んでスキルを身につけるために政府がどんなセーフティー
ネットを提供するべきか議論になっています。
ベーシックインカムのような形で国民に現金を支給している国もあります。
世界中のそれぞれの国の市民にとって非常に重要な問題なのです。
簡単な答えはありません」